自業自得

 「有能な人材ですよね」私は、社長に言った。
「そうだね。上手に新郎新婦を誘導している」

 ここは、とある披露宴会場。
たくさんのゲストで埋め尽くされた会場。
照明を落とした場内の中央をスポットライトで照らされながら、ゆっくりと歩く新郎新婦。
その少し前を進む男性。
時々、振り向いては、新郎新婦を手招きしながら、誘導していく。

 本来なら私がつくべきポジションである。
 私は、分厚く巻かれた右足の包帯をみつめた。

思えば、3日前。
こともあろうに、私は、階段を踏み外してしまった。
全治3週間を言い渡された。

 何か月も前から、打ち合わせを繰り返し、用意をしてきたこの披露宴の本番で、新郎新婦のお役にたてないことがくやしい。

 急きょ、先導役を買ってでてくれたのが彼なのだが。
緊張していると言っていたので、最初は心配していたが、どうやら大丈夫そうだ。
来週の披露宴も、彼が担当することになるだろう。

 本当に感のいい人だ。
少しレクチャーしただけで、もう、先導役が様になっている。
話し上手でユーモアセンスもあるので、控室でも新郎新婦の心をすぐにつかんでしまった。
とても、上手に場を和ませてくれる。
私には無い才能である。

 このまま、彼に、私のポジションを譲ってしまおうかなと。
冗談まじりで、彼にそう言ってみたら、笑い飛ばされた。
「怪我のせいで弱気になっているだけだよ」

 確かにそうかもしれない。
それに疲れているのかもしれない。

パンプスの靴底がはがれ始めていたのは、前々から知っていたのに、なぜ、買い替えることをしなかったのだろう。
忙しくて、買に行く時間がなかったはいいわけにならない。

おかげで、このような結果になってしまった。
自業自得なのだが、あの時に時間がもどせたらなと、つい、思ってしまう。

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