蚊との戦い

人間、誰でも夜中に起きたことがあるだろう。
トイレに行きたくなったとか、喉がかわいたとか。
突然体調が悪くなったというのもあるだろうし、寝苦しくて起きてしまうこともある。
悪夢にうなされることも、目覚ましを間違えてかけていたこともあるだろう。

そんな数ある夜中目が覚める事象の中でも、私が一番憎んでいる起こされ方は、蚊、の羽音である。
あのちょっとビブラートをかけたような緩急をつけたような、「プー…ン」とか「プ~ウン、プウ~ンン」とかいう強弱はっきりついた羽音。
あのごく微かな空気の振動が、その何億倍もの大きさがある人間に及ぼす効果の絶大さといったら。

どういう訳か、それまでどんなに熟睡していたとしたって、あの羽音を一瞬でも耳が捉えてしまうともう寝ていられない。
黙って寝続けていたら抵抗することなく、蚊の餌食になるのだ。
私はなによりあの羽音が嫌いで嫌いで仕方がないので、万一夜その音を捉えたら、もう一睡もしない覚悟である。

その音を出している張本人をしとめるまでは、おちおち寝てもいられない。
もちろん蚊に罪はないのは分かっている。
血を吸うのは産卵期のメスだけと聞いたことがあるが、だとしたら血を吸う行為もぎりぎりの生きる選択なのである。
だけれどもこちらにとっても大切な睡眠を妨害されるわけなので、申し訳ないが戦わせて頂く。

ということで、「プーン」が聞こえたときには、私はまず電気をつけ、バックをとられないように部屋の隅に行く。
そして、壁の角を背にどっかと座るのである。
それからが長い。

空間の中を、もともとか細いという表現であるほど細くて華奢な蚊を見つけるのはそう容易なことではない。
じっと目を凝らす。
見つけた、と思ってはすぐに逃し、また見つけては逃しを幾度となく繰り返す。

そしてついに私の体温に引き寄せられてきた蚊が、手の届くまで近くにやってくるのだ。
空腹の為かよろめくように弱弱しく飛ぶ蚊。
ついに、両手でパチンとはたく!

恐る恐る手を開くと、何も居ない。
あの潰れたところを見るのが嫌なので、無意識のうちに私の手が、壊れ物を包むときの丸い手になっていたのであろう。
それではつかまるわけはない。

と、またこれを幾度となく繰り返すのだ。
しまいには疲れて寝てしまい、朝起きると体中何箇所も膨らんでいるのだ。
今のところ、9割がた、蚊の勝利ときている。

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